祭りの熱気と静寂を融合させたトベタ・バジュンの新作『Sergio Mendes Tribute』
2023年9月4日、トベタ・バジュンの新作『Sergio Mendes Tribute』がリリースされました。このアルバムは、偉大なブラジリアン・ポップス及びボサノヴァの巨匠、セルジオ・メンデスへのオマージュであり、彼の名曲「Batucada」や「Mas Que Nada」を現代の解釈で彩る祝祭的なトリビュートアルバムです。
アルバム全体を通して、多幸感にあふれたサウンドが織りなされ、リスナーはメンデスが遺した音楽の喜びに魅了されることでしょう。しかし、その熱気が最高潮に達した後に登場する一曲、特に「Goodnight Maestro」にこそ注目が集まります。この曲は、一晩の賑わいが消えていく中での静けさを象徴しています。賑やかなパーティーが一つずつ灯りを消していく様子を思い起こさせ、最後に残った小さなランプのもとでの心の静けさを表現しています。
「Goodnight Maestro」はインストゥルメンタル・トラックとして、追悼の行為を湿度の高い涙から切り離し、感謝と安らぎの境地に導いてくれます。この楽曲ではボサノヴァという枠を超えて、モダン・クラシカルやピアノ・チルの要素が交錯しています。トベタの別名義「Classy Moon」に見られる気品ある空間性や、Spotifyでの成功を収めた「A Light That Never Goes Out」の静謐なテクスチャーが見事に表現されています。
特に注目すべきは、「Goodnight Maestro」における機能和声の繊細さと打弦音の減衰処理です。ピアノの音が空気の中で溶けていく余韻、そして低域を支える残響空間は、ボサノヴァの余韻を描くだけでなく、トベタの近作『Anechoic』で探求されたアンビエント/現代ピアノの音響美にも響き合っています。
セルジオ・メンデスのファンにとって、このアルバムのラストトラックは、マエストロにささやく「おやすみなさい」といった静かなレクイエムとして機能します。背景を知らないリスナーにとっても、一日の終わりに、静かに寄り添うピアノ・チルアウトの体験が待っています。
また、本作のライナーノーツは、ブラジル音楽の第一人者である中原仁氏によるもので、日本語・英語・ポルトガル語の三言語で展開されています。日伯両国の音楽シーンから受けた祝福を丁寧に解釈できる内容です。中原氏は長年J-WAVEの「サウージ!サウダージ」でも選曲を手掛けており、その視点が十分に活かされています。
トベタ・バジュンは、坂本龍一に師事し、現代音楽やエレクトロニカからブラジル音楽へと30年にわたる越境的な活動を行なってきた作曲家、プロデューサー、ピアニストです。彼の音楽は、これまでに多くの国際的なアーティストとのコラボレーションでも知られています。さらに、2026年には新たなアンビエント/現代クラシカル作品『Anechoic』のリリースも控えています。
トベタ・バジュンの音楽の世界をぜひ体験してみてください。彼の新作『Sergio Mendes Tribute』は、現代の音楽シーンにおいて新たな一歩を感じさせてくれます。